2014年11月24日月曜日




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「情報発信の場があっても、人との繋がりが持てないのって、スゴイ残酷なことだと思うんだよね」


僕たちはいつも電話をする。 僕たちというのは、一人は自分、もう一人は高校時代の友人である。暇さえあれば電話をしてしまうので、今みたいな無料通話アプリがなかった頃には莫大な電話料金が請求され親にこっ酷く叱られたものである。


「いきなりどうしたの?」


今日もいつものように暇を持て余して、彼に電話をしてみる。僕たちの電話ツールはもっぱらスカイプだ。LINEとかいろいろなツールやアプリはあるけれど、やっぱりスカイプが馴染み深く彼ともPCで繋がっているので、ログインしたことがすぐに分かり電話をかけやすいのだ。


「いや、近頃さ、自分の思いを表現する機会が誰にでも出来てるわけじゃんか。伝えたいことを伝えやすくなってるし、作りたいものも作りやすくなってきてる。一億総クリエイターの時代って誰かが言ってた気がするぐらい勢いがあるわけよ」


彼との電話の内容はとても下らないことばかり。さっき食べたご飯の話、今週の予定がどうとか、今見ているテレビの内容(たまに話そっけのけでテレビに集中してしまっていることもある)、ときに彼女に振られた話や人生設計の話などもしなくもないが、ほとんどは不毛はもので、お互いどうして電話なんかしているのか理由を明確にすることもなしに、もはや条件反射のようにログインしたら電話をかけている。


「でもだよ、これよく考えたらえげつないことが容易に起こりうるんじゃないかって思うんだよね」
「ほう。それは何故?」


聞き役はどっちか?で争論することがたまにある。お互い頑固で、お互いがお互いに聞き役だと思っているせいか、俺が聞き役だ、と役目を主張し始めると、議論が平和に終わることはない。どちらかが必ず不貞腐れて無視をきめこむ。でも、物は考えようで、双方が聞き役だよねって円満合意すればいいんだろう、けど、彼はどうも聞き役ポジションを譲りたくない何かがあるみたいだ。


「だって、自分の考えを世に伝え易くなったってことは、それを受け取る誰かがいないといけないわけでしょ。世に出したものがスゴイ魅力的なものであれば、自ずと人が集まってくるんだろうけど、もし、人が集まらないんだとしたら、それはもう自分の存在が全否定されてることと同義になるんじゃないかって思うわけだよ」


彼のスカイプからはテレビの雑音がする。 番組を盛り上げるために、視聴者がさも笑っているだろう機械的な、ここが笑いどころだよみたいな演出のための笑い声が、スカイプからわりと大きめのボリュームで漏れている。


「人が集まらないってことは、それ自体に魅力がないってことになるわけだからね、もうあれと一緒だよ、売れ残りバルクセールでも誰からも買われないあれ」


彼からの返答はない。話を聞いてる素振りもなければ、相槌もない。自分は一体誰と会話をしているのか不安になるぐらい孤独感を味わいながら、パソコンの画面に向かって話を続ける。


「しかも商品なら、アップデートされちゃって旧型になったものとか、もう時期とか季節的に需要がなくなったっていう明確な理由があるから買われないのも納得は出来るけど、人の場合、人が集まらないのに明確な理由があるわけじゃないじゃん?ただただ退屈でツマラナイっていう捉えづらくて変化しやすい感性的なものが足りなくて、それが原因で寄ってこないってことになるわけでしょ?それってつまり、人生単位で存在否定されちゃってるんじゃないかって思わない?今まできぐるみ着て誤魔化してた自分が露わになる感じで戦慄しない?」


絶望を隣に居座らさせ、顔を青々とさせながら、やさぐれ気味の発言を投げ続ける。電話だと表情を気にしなくていいから楽ちんである。数秒の間を置いた後、重い腰をあげて、彼が漸く話し始めた。


「一億総クリエイター時代も、陽性な面だけじゃなくて、陰性な側面もあることを知っておく必要はありそうだよね 。でも、逆に言えば、人が集まれば人生単位で認められてるってことになるわけでしょ?単純な話じゃん?」


テレビからは男子高校生が長年思いを寄せていた女子に告白をするドキュメンタリー番組が放映されている。長い間彼の内側で保温された彼女に対する熱い思いが、言葉になって相手に伝わる瞬間を視聴者として楽しむ。甘酸っぱい出来事を味わったからか、はたまた別の事でか分からないけれど、 青々とした顔色が一瞬にして火照ったのを感じた。

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