2015年1月23日金曜日




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「最近ね、私、漢検の勉強してるんだよ」
「漢字って語源があって面白いもんね」


とあるイベントの帰り道。同じ方面だった女の子と一緒に帰路についている最中である。一緒に帰るのは今回だけでなく、以前にも同じイベント(というか習い事)で方面が同じであることを知り共に帰った。その時はお互いの恋愛話なんかで盛り上がったのだが、今日はしんみりとした話ではなくお互いの趣味について話をしていた。


「そうなの。文字と文字がくっつくと違う意味になるのとか、すごい不思議で楽しい」


趣味は、料理と言っていたが、他にも勉強が好きらしい。学のある人は話していて楽しいからついついはしゃいでしまう。


「じゃあ、ボキャブラリーボーイのこの俺と漢字クイズしようよ」
「なにそれ。クイズ?」


話を聞くと、通ってる大学は偏差値のお高い学校。一回目に会ったとき感じたしっかりとしたオーラは上位大学のエリート女子を漂わせていたが、直感に狂いはなかったようである。


「そう。いろんなシーンの状態を漢字二文字だけで表現するんだよ」
「あら、それは面白そうね」
「何でもテキトウに言ってみて。さあ早くかもん」
「わかったよ。笑 じゃあ、行くよ」


彼女は下らないことに付き合わされていると隠しきれていない顔をしている。が、その優しさに漬け込まれながらリアクションはしっかりと取っている。


「昔めっちゃめんどくさかった人と君がよく被るんだけど、これってどういう状態なの?」
「周辺人物のめんどくさい人と被っちゃうのはよく言われることだよ」
「それをなんて表現するのよ?」


エスカレーターを下る最中の発言であまりの突然のことで息が詰まりかけた。一瞬、周辺の時間も止まった。エスカレーターも止まった、かと思った。


「これはね、ホウフツ、ってことだよね。」
「ほうふつ?漢字どんなんだっけ?」
「行構えがダブルであるやつ」
「あれね…。なかなか複雑なんだね。笑」
「どんどん来なよ。全部二文字で表現してあげるから!」


エスカレーターを乗る際、自分たちの間に一人の男性が割り込んで入ったきた。彼女と話をするときは、必然的にその男越しに話をしなければならない形となってしまった。その間は沈黙、エスカレーターを降りることに集中した。エスカレーターを下り終えると、前にいた彼女が待ってくれていた。


「じゃあ次ね。私、よく癖でやっちゃうんだけど、歩いてるとき、目が見えない人用に黄色い点字版が道にあるじゃない?あの上を右足から出せば今日は良い日になれるんだっていう、ジンクスを作るんだけど、これってなに?」
「なるほどね。それなら俺もあるよ。身体洗うときは右腕からとか、指鳴らすときは右の親指からとかっていうあれのことでしょ?」
「君のジンクスはわかんないけどさ。 これを二文字で表現してよ」
「これはね、簡単だよ。誰にでも分かりやすく表現するワードがもう思いついてる」
「何?早く早く」


駅のホームに向かっている。その道中、敷き詰められた黄色い点字版を右足から踏み付けるようにして彼女は歩いている。ジンクスを信じている、というのは嘘ではなかったようだ。


「『ジユウ』だよ」
「じゆう?」
「個人の『自由』」
「・・・」
「分かり難かった?笑」
「ううん、逆。なんとなく理解出来たから嫌。笑」


下らない会話はときに楽しい場合もある。意味のないことでも、楽しみ笑うことが有意義になることだってある。たとえ愛想笑いであっても笑顔は大切だ。口角をあげること、目を弛ますこと、大声だしてアクションをとること。どれ一つ欠けてはならない、楽しむことの構成要素である。


「ジンクスは誰にも縛られることなんてありはしないんだよ」
「めっちゃ良いこと言ってるね」
「良いこと言うのも得意だからね」
「君は本当にめんどくさいよね」
「よく言われるんだよね」


たとえ愛想笑いであっても、会話をすることは大事なことだ。心の奥底で何を思っていようがそれは変わらないことだ。

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